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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6621号 判決 1984年3月28日

原告 株式会社 B

右代表者代表取締役 甲野太郎

被告 株式会社 讀賣新聞社

右代表者代表取締役 小林與三次

右訴訟代理人弁護士 阿部隆彦

同 田中治

同 北沢豪

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円およびこれに対する昭和五七年六月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し、讀賣新聞朝刊全国版に、縦二〇・五センチメートル横二二センチメートルのスペースを用いて、別紙(一)記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五七年一月三〇日、同日発行の讀賣新聞朝刊(東京版)二三面に、別紙(二)記載のとおりの内容の記事(以下本件記事という。)を掲載して報道した。

2  原告は、昭和五七年一月二九日東京赤坂のホテル・ニュージャパンで開催された「第一回イメージギャル・コンテスト」(以下本件コンテストという。)の共催者であり、原告会社の代表取締役甲野太郎(以下甲野という。)は、本件コンテストの主催者であるイメージギャル・コンテスト実行委員会委員長となり、本件コンテストを企画・推進したものである。

3  ところで、本件記事は、昭和五七年一〇月一日施行の株主への利益供与禁止条項を含んだ商法改正(昭和五六年法七四、以下今回の改正という。)を前に、各総会屋は生き残り作戦に懸命であるとの背景説明を行ったうえで、本件コンテストを右背景の中に位置付け、A氏は大物総会屋であり、今回の改正についての対応策として美人コンテストを企画、推進し、協賛金名下に六七社から二〇〇〇万円もの金銭を集めたこと、又、警視庁捜査四課では、本件コンテストの真の狙いは商法改正後を見越した協賛金集めの実績作りにあるものとみて警戒を強めていることを正式発表したかの如く、読者に認識させるものとなっている。

4  そして、本件コンテストについては、そのイメージ・ギャル募集広告を、アンアン、ジェイジェイ、週刊平凡等のヤング向け雑誌に掲載し、又、コマーシャルタレントを必要とする大手企業、広告代理店、CF製作会社、プロダクション等に対し右コンテストの開催を呼びかけたので、多数の者が知っており、本件記事中のA氏が甲野を指すことは明らかである。

5  従って、甲野は総会屋でないから本件コンテストが前記目的をもって企画されたものでないのに、本件記事により、原告の共催する本件コンテストが、総会屋による利益供与禁止条項に対する巧妙戦術としての不純な動機によるものであり、かつ、真実に反して六七社から二〇〇〇万円の金銭を集め、又警視庁が正式発表をしたかのように、誤った印象を読者に与えるべく報道したものであり、被告は、故意又は過失により原告の名誉と信用を毀損したものである。

6  その結果、本件コンテストは盛況裡に終了したにもかかわらず、本件コンテスト実施の翌日に本件記事が掲載されたため、週刊プレイボーイ、デラックスプレイボーイを除く各雑誌は、入賞者発表記事の掲載を遠慮し、広告代理店等も、入賞者を本件コンテスト入賞者として売出すことを避け、テレビ関係者も手を引いた。

これらにより、以後本件コンテストに対する協力者は減少し、本件コンテストのイメージに重大な悪影響を与え、その共催者である原告の名誉と信用を毀損した。

7  よって、原告は、被告に対して、右名誉及び信用毀損に対する慰藉料として金三〇〇〇万円およびこれに対する本件不法行為の日より後である昭和五七年六月二二日から右支払済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉及び信用回復のための措置として請求の趣旨第二項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  請求原因3は否認する。

3  請求原因4のうち、本件コンテストについて原告主張の広告が掲載されたこと、および「A氏」が甲野を指すことは認め、その余は否認する。

4  請求原因5、6は否認する。

三  抗弁

1  本件記事の公共性と公益目的

(一) 株式会社は、現代社会における経済活動の根幹をなし、その運営の健全化は公共の利害と密接に関連する。そして、商法は今回の改正で株主総会運営の適正化、活性化を阻んでいる総会屋を規制するため、株主への利益供与禁止規定を設けたので、本件記事掲載当時、総会屋側では、右規制を潜脱するために出版業への転向や右翼活動の標傍等の方策を探究しているといわれていた。

(二) 従って、かかる時期における本件記事は、その内容が公共の利害に関する事実についてのもので、かつ、専ら公益を図るために掲載されたことは、明らかである。

2  本件記事の真実性

総会屋の行動は顕在化することは稀であるから、本人が総会屋であると名乗らなくとも関係者が総会屋と処遇し、本人がそのことを黙認する状態が継続すれば、世間的には総会屋と評価される。

そして、甲野には次のような事情があり、総会屋と評価されることがふさわしい。

(一) 警視庁、大阪府警などは、甲野を総会屋としてリストアップし、その動向を注目している。また、週刊ダイヤモンド78・7・1号の「大阪府警東警察署管内企業防衛対策協議会が賛助拒否等を決定した総会屋名」の中に甲野は含まれていた。

(二) 総会屋人名録として主要会社の総務担当者に広く活用されている「担当者必携」に、甲野は、要注意人物のマーク付きで掲載されている。

(三) 雑誌「フォーカス」の昭和五七年二月一二日号は、甲野を「右翼の総会屋」と紹介している。

(四) 甲野は、総会屋的動きを次のような場合に行っている。

(1) 右翼活動に関連したもの(チッソ、石川島播磨重工業等)

(2) 社長や重役中に親密な人がいる時

(3) 親友が担当者である時

(4) 他の事由でその会社に世話になっていた時

(5) 取締当局の依頼による時

以上のように、甲野が総会屋と評価されることにより、本件コンテストの本来の目的とかかわりなく、今回の改正を潜脱する目的を有するとの疑惑を生ずることは、やむをえないことであって、この点も真実と言える。

3  真実と信じたことの相当性

仮に、本件記事に真実でない点が含まれていたとしても、被告は本件記事掲載にあたり、その内容たる事実を本件コンテスト現場で主催者側から取材し、慎重に調査し、更に警視庁の当局等で裏付調査を行ったうえで掲載しており、前記内容を真実であると確信して記事としたのであり、右事実を真実であると信ずるについて相当の理由があった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)は認める。

2  抗弁1の(二)は否認する。

被告は、読者の興味本位で本件記事を掲載したものである。

3  抗弁2は否認する

甲野は二十数年来の右翼活動家であり、民族主義者であって、総会屋ではない。

抗弁2の(一)ないし(三)の各記事の存在は認めるもこれを黙認することなく、抗議のうえしかるべき処置をとっている。

(一) 週刊ダイヤモンド78・7・15号に「訂正とおわび」が掲載された。

(二) 「担当者必携」は、総会屋人名録ではなく、右翼やミニコミ誌の発行者等も掲載されており、甲野は、右翼として右リストに資料提供した結果掲載されているにすぎない。

(三) 雑誌「フォーカス」の記事は、「右翼とモデル・コンテスト」との表題も示すように被告の報道とは、読者に与える印象が異なっている。

抗弁2の(四)記載の場合に、広い意味での総会屋的動きをしたことは認める。但し、これらも右翼としての行動であり、これをもって総会屋と評価することはできない。

4  抗弁3のうち、被告の記者が本件コンテスト会場に来場し取材したことは認めるも、その余は否認する。

本件記事の内容は、取材に応じて甲野が述べた内容とも異なるのであり、相当性は認められない。

5  本件コンテストは、安易に外人タレントに依存しがちなCM界の現状を打破し、フレッシュなCMタレント発掘のために開催したもので、商法改正は意識されていない。

また、協賛金は一四二二万円であって、協賛会社は二〇〇社近くあり、当日コンテストに参加したのが六七社であった。

コンテストの収支は、一三二五万円の赤字であったことも、コンテスト開催の目的が潜脱方策の実績作りでないことを示している。

第三《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いはない。

二  請求原因3について

株主への利益供与禁止条項を規定した改正商法が、昭和五七年一〇月一日から施行されたことは、顕著な事実であり、本件記事が、昭和五七年一月三〇日付讀賣新聞朝刊(東京版)に掲載されたものであることは、当事者間に争いはない。

《証拠省略》によれば、本件記事は、「総会屋が美人コンテスト」「新手の資金稼ぎ警戒[警視庁]」「六七社が協賛二〇〇〇万円」「商法改正で巧妙戦術」といった見出しとともに写真入りで掲載され、また、その前文でも、「各総会屋は生き残り作戦に懸命だが、警視庁捜査四課はこの日のコンテストもそうした動きの一つとみて協賛企業からの賛助金の実態について事実調査に乗り出した。」と記載されていることが認められる。

そうであると、本件記事は、本件コンテストを、時期的にも総会屋の生き残り作戦の動きの一つとして位置付け、協賛金名下に六七社から二〇〇〇万円を集めるなど協賛金の実績作りに真の狙いがあるかの疑いが持たれる旨を読者に認識させるものであることを認めることができる。

しかし、《証拠省略》によるも警視庁が本件コンテストについての正式見解を発表した旨の解説は、本件記事中には認められず、わずかに「新手の資金稼ぎ警戒[警視庁]」との見出しが認められるのみである。ところで、新聞報道が通常の読者にいかなる印象を与えるかは、見出し、記載内容、活字の大きさ、記事の配置等記事全体を総合して判断すべきであるが、本件記事は、前記認定のように見出しに「[警規庁]」の文言を使用しているが、その前文、本文をもあわせ読むなら、警視庁が警戒を強め、実態調査に乗り出す旨の認識は得られても、右内容を正式発表したとの印象を、読者に与えるものと認めることはできない。

三  請求原因4について

本件コンテストの広告が原告主張の雑誌に掲載されたこと、および、本件記事中の「A氏」が甲野を指すことについては、当事者間に争いはない。

四  請求原因5について

前記認定のように、本件記事は、甲野は総会屋であり、商法改正を前にした巧妙戦術として本件コンテストを開催したとの疑いを読者に印象付けるものであるから、本件コンテスト自体のイメージを害し、ひいては、本件コンテストを共催した原告の名誉と信用を毀損したものと認めることができる。

五  そこで、抗弁につき判断する。

1  新聞記事が、他人の名誉を毀損する場合であっても、右記事を掲載することが、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たときは、摘示された事実の真実性が証明される限り右行為は違法性を欠き、また、その真実性が証明されなくとも、報道する側において右事実を真実であると信じ、かつそう信ずるについて相当の理由がある場合には、右行為は故意、過失を欠き、結局不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年六月二三日判決民集二〇巻五号一一一八頁参照)。

2  これを本件についてみるに、

株式会社の株主総会の運営を適正化・活性化することが今回の商法改正の一つの目標であり、本件記事掲載当時、総会屋が、各方面への生き残り作戦を展開していたことについては、当事者間に争いはない。また、《証拠省略》によれば、かかる時期に、右に関連する内容で、実名を挙げずに匿名で記事が構成されていることが認められる。また、《証拠省略》によれば、本件記事を執筆した同人は、改正商法の施行を控えて、当時、企業は総会屋と絶縁すべきである旨のキャンペーンを、当局及びマスコミが展開していたので、企業関係者に注意を喚起すべきであるとの点にニュース価値を認め、個人攻撃とならないように匿名で本件記事を執筆したことが認められる。これらによれば、本件記事の報道は、公共の利害に係るもので、専ら公益を図る目的に出たものと認めることができる。

3  そこで、本件記事の内容が真実に合致するか、仮に真実に合致しない場合には、被告の担当者がその内容を真実と信ずるにつき相当な理由があったかどうかにつき検討を進める。

(一)  甲野が総会屋であるとの点について

《証拠省略》によれば、総会屋の定義は一律に定められるものでなく、狭義には、株主権の行使に関連して財産上の利益を得ることを主としている者を指すが、広義では、これに加えて、いわゆる雑誌ごろとか会社ごろという形で企業に寄生して種々の意味で利益を得ている者も含めて理解されることが認められる。

ところで、本件記事で、甲野を総会屋と称したことの真実性を判断する場合には、その報道目的、記事の内容、記事の中における位置付け、読者の認識等を総合的に判断して、如何なる意義の総会屋として甲野をその範疇に含めたのかを検討する必要がある。

しかるに、本件記事の報道目的は、前記認定のように、改正商法の施行を控え、株主への利益供与禁止条項が潜脱されることなく、健全な株主総会が実現するよう企業に警鐘を鳴らすことであるところ、前記の狭義における総会屋的行為は条文上禁止されるところであるから社会の注目を集めるべき重点は、その潜脱を防止することにある。また、本件記事の読者層である一般大衆が、総会屋について、巌密な概念の認識を有しているものではない。

そうであると、本件記事における総会屋の意義は、右の広義に使用されたものと解することができる。

以上のような立場で本件を検討するに、甲野が、抗弁2の(四)記載のような、広い意味での総会屋的動きをしたことについては、当事者間に争いはない。また、《証拠省略》によれば、(1)甲野は、総会に関して攻撃的言動が多いという分類で、「担当者必携」という出版物に掲載されており、右出版物は、会社総務担当者の間において総会屋名簿として利用されていること、(2)甲野は、昭和五三年七月一日発行の週刊ダイヤモンド七三号において、大阪府東警察署管内企業防衛対策協議会が賛助拒否等を決定した総会屋名に掲載されたこと(もっとも、これは同月一五日発行同誌により訂正された。)、(3)甲野は、昭和五一年一二月九日発行の讀賣新聞(大阪中央版)において「右翼総会屋を逮捕」と報道されたこと、(4)楢崎が本件記事を書くにあたり、甲野は警視庁及び大阪府警が総会屋としてその動きをマークしている人物であるということが確認できたこと、(5)本件コンテスト会場には企業関係者が出席し、原告あるいは甲野はこれから協賛金を受取ったこと、(6)昭和五七年二月一二日発行「フォーカス」において、本件コンテストの記事中甲野は「右翼の総会屋」として記載されていること、が認められる。こうした事情を総合すると、甲野は、右翼であるかどうか、あるいは自ら総会屋であることを認めているか否かにかかわりなく、広義における総会屋の範疇に属すると認めることができる。

従って甲野を総会屋と扱った被告の報道は真実であって、不法行為を構成しない。

(二)  前記認定のように、甲野は総会屋であると認められるうえ、本件コンテストに多数の企業が協賛し、協賛金名下に多額の金員を供与していることは、正確な企業数や金額はさて措き、原告も自認しているから、本件コンテストの原告の主観的目的如何にかかわりなく、協賛金集め、あるいは商法改正を見越したつきあいの実績作りという意図が隠されているとの評価を受けることには相当の理由があると認められる。また、《証拠省略》によれば、被告において、本件コンテストの目的を右のように信じて本件記事を掲載したことが認められる。従って、コンテストの目的の点についても、不法行為は成立しない。

(三)  協賛金について

証人楢崎憲二の証言によれば、同人が本件コンテスト当日会場で主催者側の人物である甲野および乙山春夫から取材した結果に基づいて、同人らが六七社から協賛金二〇〇〇万円を集めたなどの説明をしたので、本文中に甲野の説明としてそのまま引用するとともに、右説明に基づき「六七社が“協賛”二〇〇〇万円」という見出しを掲げたことを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

従って、本件記事における協賛金額等に関する本文中の記載内容は真実に反するものではないし、また前記の如き見出しの内容も、甲野らの説明を根拠にしたもので、被告において、右内容を真実と信ずるについて相当な理由があったと認めることができる。

4  以上により、いずれも抗弁の成立が認められ、不法行為は成立しない。

六  よって、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井眞治 裁判官 田中澄夫 矢部眞理子)

<以下省略>

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